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「背番号〝20〟は野手の主将」 4番・北本一樹

硬式野球 2019.06.12

 数々の激戦の中で多くのヒーローが生まれた。早大戦で2本塁打の和田慎吾外野手(商4=常総学院)、慶大戦では竹田祐投手(政経2=履正社)が満塁弾……。エースの森下暢仁主将(政経4=大分商)1人に頼らない、全員野球で栄冠をつかんだ。そしてその中核を担ったのは全試合で4番を務めた副将の北本一樹内野手(文4=二松学舎大付)だった。


影の主役

 優勝の瞬間、三塁から両手を上げてマウンドへ駆け寄った。7点差をひっくり返してつかんだ優勝は「夢を見ているみたいだった」。いつも冷静な副将は、どこか信じられないといった面持ちで歓喜の輪にのみ込まれていった。

 この優勝は決して北本抜きでは語れない。リーグ戦を通して全試合で4番・三塁に座り、自身初の規定打席に到達。打率も3割3分3厘を記録したが、何より大きかったのは精神的支柱としての役割だった。今季受けた死球の数は七つ。常にラインのぎりぎりに立ち、内角の球も決してよけない。その泥くさい姿勢が、チームを勢いづけた。また「暢仁(森下)の大変さはよく分かる」と高校時代や新人戦で主将を務めた経験から、多方面で主将をサポート。森下が投球に専念できたのも北本の存在があったからだ。善波達也監督も「人間性が抜群。本当に求めていた役割をやってくれた」と手放しで称賛。しかし当の本人にとっては苦しんだリーグ戦だった。


不調脱却

 「代わるか?」。早大1回戦の第3打席に向かう前、指揮官から尋ねられた。北本は昨秋に定位置をつかみかけながら、肩を脱臼。完治には時間を要し、春先は『守備中に跳び込んではいけない。チェンジアップを振ってはいけない』といった制限付きでのプレーを強いられた。その影響から開幕後もなかなか調子が出ない。加えて〝明大の4番〟としての重圧が重くのしかかっていた。「歴代の人たちを考えると、すごいプレッシャーだった。だから最初は全く打てなかったことに責任を感じていた」。この打席まで計10打席で1安打。見かねた善波監督は4番に代打を送ることを考えた。それでも「絶対に打つので代えないでください」。そう答えて打席へ。2死一、三塁の好機。3球目の変化球を打つと、打球は詰まりながらも中前に落ちた。「めちゃくちゃ緊張した。でもあの打席で吹っ切れたと思う」。その後、慶大1回戦での先制打や優勝決定戦での猛打賞など調子は上向きに。執念の適時打が、どん底からはい上がる大きな転機になった。


20の思い

 今季の背番号は〝20〟。代々、野手のリーダーが背負う番号だ。北本も開幕前は「自分がチームを引っ張る」と強い責任感を抱いていた。それでも頼もしい主将や同期を見ると、背負っていたものが少し軽くなった。「自分はそんなに頑張っていない。チーム全員に感謝したい」。優勝後、口にした仲間への言葉。謙虚なその姿は〝人間力野球〟の象徴だ。


【楠大輝】


◆北本 一樹(きたもと・かずき)神奈川県出身。高校時代には2度、甲子園に出場し本塁打も放った。177㌢・82㌔


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