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世界銅のスポーツビジネスマン 為末大氏インタビュー

明大スポーツ新聞 2018.07.11

 「主にスポーツ界の方とテクノロジー界の方をつなぐ懸け橋となってプロジェクトに取り組んでいます」。
 400㍍Hで、五輪3大会に連続出場した為末大氏。2012年に現役を引退し、第二の人生として選んだのは選手を支える道だ。その転機は引退直前の試合。
 「観客席を見たら『為末』と書いてある板で僕のことを応援してくれる方がいて、その板がかなり古びていたんです。『いつから自分のことを応援してくれているんだろう』と考えるようになって。選手って、好きなことをやっているだけで応援されるんです。でもそういうのも終わるし、応援する側になってみるのも良いなと考えるようになりました」。
 そうして「選手の可能性を広げることがやりたい」と支える立場に移った為末氏。ではなぜ指導者ではなく〝事業者〟の道を選んだのか。
 「野球で例えてみて、指導者になる道が一塁で、事業者としてスポーツに関わる道を三塁だとします。そういった視点でスポーツ界全体を見渡したとき、引退するとみんな一塁で止まってしまっていて、アンバランスだと気付いたんです。日本のスポーツ界は国際大会でメダルをたくさん取るけど、産業としてはすごく小さい。だから『自分がこの産業を大きくしよう』と思いました」。
 そこで目を付けたのがスポーツとテクノロジーの融合。しかしスポーツ関係者にはテクノロジーの知識が、技術者にはスポーツの知識が乏しいという問題があった。
 「技術者たちはAIの開発など、できることが増えています。でもそういった方々と話すと『初めてスポーツ選手と話した』という方がたくさんいました。『スポーツとテクノロジーの間にはすごく距離があるんだな』と感じました。そこでスポーツ界のためにも、自分が間に立って双方滞りなくプロジェクトを進められるようにしたいと思いました」。
 見つけたのは〝仲介役〟という仕事。選手から支える側に移ったことで見えてきたもの、それが現在取り組んでいる事業につながっている。
 「現役時代を思い返して反省することは、相手の話をきちんと聞いておけば良かったなって。僕はなまじ話がうまかったから、なおさら人の話を聞かなかった(笑)。そうすると独り善がりになって、可能性が狭まってしまう。だから今は、何かあったときは外の情報を加えてサポートできるような仲介役をしています」。
 アスリートを支える選択肢として、事業者という道がある。その中で為末氏はテクノロジーの部門に力を入れる。多くの支え方がある今だからこそ、伝えたい思いがある。
 「スポーツ界のヒエラルキーのようなものに対して〝伴走する〟感覚を広げたいです。選手たちがやりたいことをただ支えるのではなくて、自分のやりたいことに変えて一緒に進んでいく。支えるというより〝伴走〟というニュアンスです。こういった考えが広がれば、スポーツ界はもっと良くなっていくと思います」。
 指導者から選手へ、という一方的な関係ではなく、様々な立場から支え合って共に歩んでいく。この枠組みが、今後のスポーツ界を発展させるカギとなる。【木村優美】

◆為末大(ためすえ・だい)400㍍H日本記録保持者。世界陸上選手権2大会で銅メダルを獲得し、3大会連続で五輪に出場。現在はスポーツ×テクノロジーに関する事業を行う株式会社『DeportarePartners』の代表取締役を務める


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