オープンキャンパス特別号 LS特集 明大施設課菅和禎氏、松田平田設計の山﨑敏幸氏特別インタビュー拡大版
8月1日発行の明大スポーツオープンキャンパス特別号の4面で、和泉ラーニングスクエア(以下、LS)の魅力について語っていただいた明大施設課の菅和禎氏、松田平田設計の山﨑敏幸氏。紙面ではやむを得ず割愛したインタビュー部分を掲載いたします。
(この取材は6月30日、7月5日に行われたものです)
菅氏
――建築にあたり一番大事にしたものは何でしょうか。
「まずソフト的なところでは、今の時代に合った教育環境を作るということでした。今までの何百の大教室の授業ではなく、ラーニングコモンズという少人数教育、学生たちの主体的な学び、対話的な学びという空間を作っていこうというのが一つの目的でした。同時に自分としては、この大学で一生付き合っていける友だちを作ってほしいというのがありました。もちろん勉強も大事ですが、交流を目指すというところを考えて作りました。ハード的なところでは第二校舎を設計された堀口捨巳先生の建物の記憶の継承といった学習環境を現代版に再解釈して今回この建物に移ったということです。第二校舎の大教室と第三校舎の小教室棟の単なる建て替えだけでなく、新しい教育環境を新しくした建物、教育棟という考えで作っています」
――LS建築の際、教育的な観点を重視したと聞きましたかその点はいかがでしょうか。
「ラーニングコモンズを核とするアクティブラーニングで受動的な学びから学生主体の対話的な学びの学習スタイルということを考えていきました。それはもちろん高校卒業したばかりの新しい学生の新しい学習や多様な学びに興味を持ってほしいということを考えてやっていました」
――吹き抜けは印象的な部分ですが、建設する際に大変だったことはありますか。
「まずハード的にいくと落下防止など気は使っています。ソフト的には一つの広場としての吹き抜けです。ヨーロッパで夕食時になると人が広場に集まってきてイベントや弾き語りが来ると一体になるじゃないですか。そのような感じで、なぜか人が集まってきてそこでわいわい賑やかにできる、そういう空間にしたかったです。そこでみんなで話したりしてもいいと思います」
――学生の能動的な学びが重要という観点から見て、LSの中で目玉となる建築物はどれでしょうか。
「やはり共用部分ですね。1階から3階の吹き抜け周りや4階から7階の吹き抜け周り、それから屋外テラス。このように学生が集まってそこで勉強する、交流するという空間を魅力的にしていったという事だと思います」
――至る所に遊び心があります。
「7階の男子トイレは見ましたか。人が望遠鏡見ているサインがあります。わざと工事中に窓をつけて、高速道路や新宿の夜景が見られるようにしました。それこそ欧米の建物にはくすっと笑える絵やオブジェってあるでしょう。それを狙っています。非常用ボタンも「HELP」という字を工夫するなど、さまざまなことをやっています」
――センターアゴラの名称や、カイダン教室の形状などにヨーロッパさを感じるのですが意識したりしていましたか。
「いいところを突きますね(笑)。実を言うと今回皆にずっと最初から欧米の建物にしてほしいと言っていました。それはなぜかというと、うちの娘が勉強するからどこに行くのかを聞いたらスタバって言うのですよね。明大前のスタバだって狭いのにいつも満席です。高校から上がった1、2年生たちは勉強したらかっこいい、そういうところを思っているのかなと。自分は10年前くらいにある研修で海外の大学をいろいろ見に行っていたので、今回あまり日本の建物を参考にはしていないのですよね。欧米の物を持ってこい、イメージ写真を持ってこいとやっていきました。だから階段の色使いもそうなのですよね。みんな木で段々みたいに積み木になっているのですが、少しグレーがあったり、赤や青といったアクセントカラーが出てきたり、オレンジや黄色といったそういうイメージです」
――グループボックスなどガラス張りの教室は人の姿が見えて珍しいです。
「私は中野の建築もやっていますが、中野では抵抗感があった、先生からも嫌だと。和泉は先生が嫌なら第一校舎やメディア棟があるから、嫌な人はなるべくそちらを使ってもらう。学生にいろいろな場でいろいろなことができる空間を作って、先生も授業のやり方が変わってきていると思うので、やりたい授業によって場所を選べればいいなと思いました」
――実際にLSを生徒が使っているのを見て想定と違うところはありますか。
「和室の畳は実を言うと僕は反対気味でした。寝るのはいいけど横になってだらしなく寝られてしまうのが嫌だなと思っていたのですが、意外とちゃぶ台を置くと寝るスペースなくて良かったと思いました。日本人だから靴を脱ぎたがりますね。グループボックスやソファで足を伸ばしていたりとか。足を伸ばしてパソコンを使っている姿は日本人っぽくないというか。そういう姿をキャンパスで見れたことは本当にうれしくて、これこそ欧米のようだなと思いましたね。僕が思ってない、想定してない使い方をされる方がうれしいなと思っているので、これからもっと出てきてほしいなと思います」
――生徒の出会いを意識されていましたか。
「出会いというか交流ですね。やはり学生同士の友達は、将来損得がなく付き合えるから楽しいと思います。やはり社会人になってからの友達はどこか損得があったりしてしまいますから。仕事上で会うから仕方ないことですが、なんでも言えるのは友達だったり当時の先輩後輩だったり。だから本当に学生生活大切にしてほしいです。もちろん勉強も大事ですが、友達と交流してもらいたいなという気持ちが一番強いですね。一生付き合える友達や財産をつかんでほしいです」
山﨑氏
――設計にあたり一番大事にしたものは何でしょうか。
「和泉キャンパスではLS建設の前に図書館の建設もやらせていただいていました。図書館の時のように生徒さんの居場所になるようなスペースを作ろうとしました。新しい校舎というのは教室が積層し、普段の生徒さんの居場所になるようなパブリックスペースを設けたいと。そこでとにかく学生さんたちが勉強に興味を持ってもらう、ここで他の学生が勉強しているのを見ることで、自分も勉強しよう、こんなこと学んでみたいというような学びに対する興味を膨らましてもらえるような校舎を作ろうと。建物が何か特徴的なシルエットになっているわけではなく〝学びの場の集合体〟というか、たくさんの生徒の学びの姿が積層して建物の外観を形成しているということが設計をして考えたことですね」
――LSは生徒が座って作業できるスペースが多いと感じます。
「今回設計する時に第二校舎を見ましたが、第二校舎にあった大教室は授業がない時にオープンになっていたのですよね。皆さんがそこでお弁当を食べたりしているのを見て、やはり居場所が足りないのだなと感じました。それは学校の方も言っていて、外にいろいろなスペースを作っても季節によっては外にいることができない時もあるので、キャンパスの中にスペースを作りたいと。特に大学の方は何人入れるか、何人座れるかを重視していてそれをとにかく増やすように言われていました。外構の計画も設計をしている時にコロナ禍になって、外構も設計を変更しました。当初はベンチだけを作る設計をしていたのですが、テーブル付きのベンチを設計変更で入れ替えて、よくリモートで勉強されている学生さんもいらっしゃいますが、デスクトップも開ける机付きのベンチをたくさん作りました」
――第二校舎は古き良き校舎でした。LSは大きくイメージが変わりました。
「今回のプログラムとしては、第二校舎と第三校舎、第四校舎を壊して、それらの機能を集約したものを建てるというもので、第二校舎の建て替えだけでなく第三校舎も含まれていました。ですから、第二校舎の大きい教室と第三校舎の小さい教室を組み合わせて作るというスタートでした。これも教育環境の変化で、昔は先生が生徒に対して一方的に一方向の授業をするという形でした。そうすると縦長の教室で生徒が聞きやすい教室が一番のスタイルだったと思うのですが、最近はどちらかというと横長で奥行きが浅く生徒と生徒の距離が近いというのが重視されています。実際全国の大学を見に行きましたが、やはりそういうふうにシフトしているなと。単に先生が授業するのではなく生徒同士でグループディスカッションをしたりグループワークをしたりするというふうに能動的に生徒が学習することが大事になってきているので、縦長ではなくフラットで横に広い教室が主流になってきています。ですから教室は横長で縦の列は少なく、これだけ広いとプロジェクターは見にくいかもしれませんが、それでも距離感が近いことの方が今は重視されています。デザインでいうと小教室などは全部廊下側をガラスにしています。見る見られるの関係があることで中の集中度が増す、引き締まるなというのもありますし、グループボックスと同様に教室で勉強している、いろいろなスタイルでやっているのを見るとこんな感じで授業している、いろいろな場面が見られることで刺激を受けるというようなこともあると思います。計画論的にいうと今回みたいに大きい教室と小さい教室を作りなさいと言われた時に、今回は各階で大教室を2個、小教室をたくさんというパターンを各階で同じにして階ごとの利用人数を合わせる感じにしました。2階3階はやたら混んでいるけど上は少ないというふうになるとエスカレーターにしてもエレベーターにしてもある階で詰まってしまいます。それを各階の利用人数を分散させて快適に使えるように、見えるところに階段があるので、エスカレーター混んでいるから階段で行こうかという気分になりやすいような設計にしました」
――第二校舎は堀口捨己氏が建築されたものでその意図を受け継いでいると思いますが具体的にはどのような部分ですか。
「やはり一つは屋外の導線で機能的な部分もありながらコミュニケーションスペースにもなっていたというところです。あと、この先生は校舎だけでなくランドスケープのデザインもやっていました。これは象徴的なメインストリートを設けながら校舎と校舎を斜めにつなぐということをしていました。今は建物が建て替わってきたのでこの導線があまり意味を持たなくなってしまっていました。それらを踏まえて新しい計画では考え方を変えずにメインの導線がありますが、校舎と校舎をつなぐところは、新しい校舎に合わせたラインでつないであげるというふうに基本的な考えを踏襲して中庭を整備しています。この中庭をスロープで移動しながら立体的に見るというやり方もしています。新しい教育棟でもスロープを上り下りしながら立体的に庭園や各階のテラスの緑、生徒同士の交流の様子をいろいろな角度で見られるように、いろいろな見え方ができるような、堀口先生の時にはできなかったような事実もあり、さまざまな場面をつくろうと思いました」
――図書館の建築時と比べて変わったところは何でしょうか。
「やはり教育のあり方が大きく変わったなと思っています。図書館ができた10年前はまだ一方向的な授業で、ラーニングコモンズという学生たちの能動的な学習をやっていこうという考えが出てきたころでした。その考えによる事例がまだ少なかった時代だったのですが、10年の間に教育環境が変わったなと感じました」
――設計者視点で、どのように生徒にLSを使ってほしいでしょうか。
「設計をしたときの設定としてはいろいろなストーリーがあって場所を作っているというのがあります。ラーニングピラミッドと言うのですが、講義をただ受けるだけだと授業の内容の5%くらいしか理解できないですよね。講義を受けたことで興味を持ってそれに関する本を読んだり、視聴覚学習や実験をしたり、議論するといった深めることによってだんだん理解度が上がっていきます。最終的にそれを人に発表することで一番理解度が上がるので、それに応じた場所を作っていくというのが今回の設計でした。情報や人と出会う場所、集まってみんなでつながる場所、これから共同一緒に研究したりする共同場所。加えて一人で集中して勉強する場所と発表ができる場所。この5つくらいの場所を設定して、特に一番不足していると分析したのが発表する場所でした。学生たちがそれぞれのニーズに一番合った場所を選べる、そういう選択肢をたくさん用意しておこうというふうな思想でいろいろな場所を設定しているので、気分や状況に合わせて一番過ごしやすい場所にいてほしいです。しかし、逆にこちらが全然想定していないような使い方をしてくれるのも楽しみではあります」
――LSの魅力というのは何でしょうか。
「どこに行っても魅力的だなという建物にしたかったです。大きくは1階の吹き抜けと4階から7階の吹き抜け。やはり吹き抜けがあるというのは設計的にも難しいところでそこがすごく力を注いだところになります。これから外観も見えるようになるのですが、外観も力を入れたところですし、見せ場があちらこちらにあるという設計になっています。ですから、設計も非常に難しかったですし現場で工事を監督するという意味でも考えなければならないところでした。ぜひいろいろな魅力を再発見してほしいですね」
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