三本の矢(3)熊谷郁 〝明治水球〟の体現者

水泳(水球)
2021.12.06

 リーチのある腕を振りかぶって放つ速球で、何度も得点を奪った。下級生の頃から戦線に立ち続けた熊谷郁主将(営4=明大中野)はチームを着実に躍進させた源として、キャプテンの一年を全うした。〝新生明治〟の一時代を支えた大黒柱は、晴れやかな表情でプールを後にした。

 

上り詰めた夢舞台

 史上最高となる関東学生リーグ戦2位。18年ぶりの日本選手権出場。そんな快挙ずくめの大航海にいかりを下ろした。自身の引退試合となったのは例年の日本学生選手権(以下、インカレ)とは違い、日本選手権の本選。「胸を借りて対戦できた。〝ありがとうございました〟という気持ちを込めて」。プールに頭を下げ、しのぎを削った相手と3回のグータッチ。「終わってみると、意外と晴れ晴れとしている」。幕引きは潔かった。

 

負けに学ぶ向上心

 期待を一身に背負ったホープは、何度も悔しさにさいなまれた。1年次のリーグ戦では22得点を挙げて鮮烈なデビューを果たすが、最終順位は7位。翌年は8位に沈み、入替戦を1点差で逃げ切るのがやっとだった。悲願のベスト4入りを目指したインカレも壁はわずかに高かった。

 昨年度のインカレは初戦で敗退し、悔し涙。主将を引き継いだが、その重圧は大きかった。「これまで3年間は何も結果を出せていない」。勝たなければいけない。愚直に結果を追い求め、勝つための水球を模索した。

 

結果で見せた一年

 選手として最後のシーズン。積み上げた勝利は偶然ではない。徹底した分析で相手の虚をつき、一点一点を大事に重ねていく。リーグ戦のヤマ場となった筑波大戦では、得点源の2選手をマークして大金星。日本選手権では「相手を研究したディフェンスが第1Pに機能した」。東京五輪出場選手を擁する相手に〝明治の水球〟を体現する攻守の大車輪。熊谷郁自身もゴールを揺らし、敗戦以上の収穫を得た。「自分たちの結果を超えるような活躍をしてほしい」。偉大な遺産を次の世代へ。その功績は色あせない。

 

[村川拓次]

 

◆熊谷 郁(くまがい・かおる)神奈川県出身。攻撃はもちろん守備にも回るオールラウンダーとして活躍した。185センチ・80キロ